メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 飛び散ったガラスや歪んだサッシからして、外れた窓が上階から降ってきたようだった。
 さっきのは、これが落ちて割れた音?

 その傍らに春野さんが座り込んでいた。
 というより、力なくへたり込んで呆然としている。

 その視線の先、割れたガラス板の下から、みるみる血溜まりが広がってくる。

(まさか)

 思い至ったそのとき、ふいに真横に気配がした。
 白みがかった艶やかな金色の髪が揺れる。

「……間に合わなかったね」

「……!」

 真白さんのそんな言葉を聞いた瞬間、理解するより先に床を蹴って駆け出していた。

 廊下を抜けて階段を駆け下り、上履きのまま校舎の外へ飛び出す。

 やじ馬の人だかりをかき分けるようにして進み、渦中(かちゅう)へと急いだ。
 音が消え、視界が霞む。

「玲……。玲……っ」

 縋るような思いでその名を呼びながら、脇目も振らずに進む。
 血溜まりへたどり着くと思わず力が抜けた。

(そんな……)

 あまりにも初歩的な失敗だった。

 春野さんを殺すという目的ばかりに気を取られ、玲を(かえり)みることをおろそかにしてしまった。

 こんなにもあっけなく失うなんて。

 きっと、突然落ちてきた窓から、とっさに春野さんを庇った玲が下敷きになったんだ。
 偶然居合わせ、代わりに命を落とした────最初の結末と同じように。

 この絶望も痛みも二度と味わいたくないと思っていたのに。
 玲にまたしても死の苦痛を負わせたことも含めて、どこまでも兄失格だ。

(……早くやり直そう。こんな腐った結末、絶対に認めない)

 きつく唇を噛み締め、ポケットに手を入れる。
 しかし、そこにあるはずの砂時計がなくなっていた。

 混乱しながら思わず振り向くと、凜と佇む真白さんもこちらを見下ろしていた。
 その手には青薔薇の咲く砂時計。

「いつの間に……」

「見てられない。戻らないと」

 そう言ってひっくり返すと、さらさらと砂がこぼれ落ち始めた。

 ぱあっと一気に世界が輝きを放つ。
 人もものも光にふちどられ、眩しい粒になって溶けていくみたいだった。

(綺麗……)

 急激な眠気で意識がふわふわ浮かび上がり、思考も感情も露と消えて凪ぐ。
 夢のように幻想的な終末。

 だけど目を閉じる寸前、光で満たされたそんな世界にひびが入るのを見た。



     ◆



「……ちゃん。お兄ちゃんってば」

 ふと目を開けると、そこには不思議そうにこちらを覗き込む玲がいた。

 何度目かの慣れた“今日”の朝。
 今回は()()()()の砂時計で、自分たちの意思で戻ってきた。
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