メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 彼女の調子に合わせながら笑みを深めると、窺うような瞳が揺れる。
 それでも、意外と簡単にはなびいてくれないみたいだ。

 何か言いたげに見えてあえて黙っていると、春野さんはおずおずと口を開いた。

「あの、何かあったんですか?」

「え?」

「急にそんなこと……。顔色もよくないみたいだし」

 取り繕うのも忘れて正直に驚いてしまう。
 まさか、見抜かれるとは思わなかった。

 今朝の不調がまだ続いているせいだろうか。
 それとも、玲を失う恐怖か、焦りか。

 何か返そうと口を開いたそのとき、唐突に彼女が視界から消えた。

 はっと(またた)くと、そこには代わりに真白さんが立っていた。

 風になびいた髪が揺れる。
 伸ばしていた手を下ろし、いつもの無表情で俺を捉えた。

「真白さん……?」

 彼女がいまの一瞬で何をしたのか、本能的に理解できてしまった。
 答えを聞くまでもなく、()り込まれた認識によって。

 屋上のふちに視線を移し、一歩、二歩、誘われるように歩み出ると下を見る。

「……っ」

 息をのんだ。
 目をつむって背け、おののくようにあとずさる。

 うつ伏せに横たわる彼女とその周囲を染める血溜まり────。
 見えたのはたった一瞬でも、脳裏(のうり)に残像が焼きついて離れなくなる。

「……突き落としたの?」

「もたもたしてると“昨日”みたいになるから」

 臆することなく答えた真白さんは、改めてふちから見下ろした。
 春野さんの死を確かめているのかもしれない。

 確かに彼女の言い分は正論だ。
 あれ以上、春野さんとの問答(もんどう)を長引かせたところで、得られるものはきっと何もなかった。

 どうせ巻き戻ってしまうとしても、ふいに玲を失うことがないように、さっさとこの結末を確定させておくべきだ。

 “今日”、俺が積極的に動いたのだってそれが理由だった。
 “昨日”の失敗を繰り返さないよう焦っていたんだ。

 無事、春野さんを死に追いやれてほっとするべきなのに、どうしたってそう簡単には割り切れない。
 もう彼女には同情しないと決めたはずなのに。

 ふとその長い睫毛が揺れたかと思うと、真白さんは身を引くように素早く下がった。

「どうかした?」

「……何でもない。それより、具合がよくなさそうね」
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