メリーでハッピーなトゥルーエンドを
またしてもどきりとしたものの、この場合は見抜かれたわけではないだろう。
「ああ、砂時計を使ったせいだろ? いまは痛みも鼻血も止まってるけど」
「その通り。でも、朗報。“今日”は砂時計をひっくり返す必要がない」
淡々とした彼女の言葉にやわく頷く。
「それは……そうだね。春野さんが亡くなって、玲は助かった」
「うん。それはあなたの望むところだけど、それ以上に特別な意味がある」
「……特別な、意味?」
「わたしたちの目的はまさにそれでしょ。だから、あなたに貸した砂時計は、その目的を果たせば薔薇が回復する」
思わぬ言葉に目を見張った。
つまり、春野さんが先に亡くなり、玲が生き延びる────そんな本来の運命を再現できれば、砂時計の効力は無限ということだ。
死因は無関係だから、どんな手を使ってもとにかくその結果さえ得られればいい。
「回復するのは1輪ずつだし、5輪が上限だけど。……安心して。薔薇が咲き戻ればあなたの不調も消える」
「じゃあ、“明日”目覚めれば……」
「リセット。連中より優位に立てる」
薔薇も戻り、俺の失敗と罰も帳消しになる。
実質的に俺も死から遠ざかることになるわけだ。
そんなことを考えたとき、はら、と目の前を何かが舞い落ちていった。
(……花びら?)
血みたいに真っ赤な薔薇の花びら。
ふと顔を上げると、空間そのものにひびが入っていた。
「え……」
亀裂はみるみる枝を伸ばし、世界が割れて崩れ落ちていく。
その破片が音もなく降り注いでいた。
「やつらの砂時計だよ。これで“今日”もおしまい」
微塵も動じることなく、仰いだまま真白さんが言う。
同じ砂時計でも時間の戻り方がまるで真逆だ。
俺の持っている砂時計が光に満ちた“再生”なら、これはまるで“崩壊”。
終局を迎えた世界が常闇に飲み込まれていくみたいだ。
「……っ」
やがて足元の地面を失った俺は、虚空の深淵へと投げ出された。
反射的に閉じた目を開ける。
見上げると、羽根を広げた天使が舞い降りてきていた。
伸ばされた両手が、びっくりするくらい優しく俺の手を取って包み込む。
「心配いらない。死ぬことはないから」
色のない真白さんの表情や言葉に、いまばかりは温度を感じられた。
もしかしたら、とふいに気がつく。
春野さんを突き落としたのも、冷徹がゆえじゃなかったのかもしれない。
(……俺の、ため?)
意外なほどあたたかい温もりが染みたとき、“昨日”と同じように抗えないほどの眠気に襲われる。
ふっと目を閉じると、そのまま意識を失った。