メリーでハッピーなトゥルーエンドを

「だめじゃないよ。きみはだめじゃない」

 手段は倫理観も道徳も損なっているかもしれないけれど、何度も救われたのは確かだ。
 むしろ、だめなのは俺の方。

 “昨日”は玲を守ることも春野さんを手にかけることもできず、変化したシナリオに振り回されていただけだった。

 まさか玲が殺されるなんて予想だにしなかったとはいえ、あれは俺の中途半端さが招いた結末だ。

 いまのしかかってくる苦痛は、紛うことなき罰でしかない。

 倦怠感を誤魔化すように重たく息をついた。
 霞みがかっているみたいにぼんやりする頭で考える。

 どうして玲は殺されたんだろう。
 いったい、誰に……?

 展開や結末が変わったことに伴う変化のうちなのか、悪意を持った誰かがいるのか、分からないことだらけでまともに(いきどお)ることもできない。

 “不届き者”との見えない攻防はいつまで続くんだろう?

 向こうの砂時計に咲く薔薇を、先にすべて枯らしてしまえばいいだけだと思っていたのに。

(……とにかく俺は、春野さんを死に追いやり続けるしかない)

 だけど、無関係なはずの深山くんにことごとく妨害される現状────。
 春野さんを殺そうにも、彼が庇って代わりに死んでしまう。

 これでは目的を果たせず、すべての薔薇が枯れてしまう。

(こうなったら……)

 玲が殺されるより先に、彼を出し抜いて春野さんに手をかける。それしかない。

 たとえ、俺自身が自滅することになっても。



     ◇



「妹……」

 こぼれ落ちた声はひび割れて掠れた。
 衝撃に明け暮れて愕然(がくぜん)としてしまう。

 玲ちゃんは、柊先輩の妹だったんだ。

『許してくれとは言わない。だから謝らないよ。可哀想だけど、ここで死んでくれる?』

 彼に向けられた殺意と刃を思い出し、いっそう目の前が揺らいだ。

 玲ちゃんを救うためには、わたしが死ぬ必要があるということ?

「どうして……」

 どうして、わたしが死ななければならないんだろう。
 柊先輩や天使に殺されなきゃいけないんだろう。

 何より、どうして郁実はそんな玲ちゃんのことを手にかけたんだろう?

 ほの暗い頭の中を疑問が駆け巡り、混乱を極めて立ちすくむ。
 何だかあらゆる前提が崩れかかっている不穏な気配があった。

「その答えは、俺じゃなくてあいつから聞け」

 御影の言葉に顔を上げると、彼は親指で扉の方を示していた。
 ちょうどそれが軋んだ音を立てながら開く。

 ────現れたのは、柊先輩だった。
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