メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 一瞬、息が止まった。
 冷たくて底も見通せないような彼の瞳に気圧(けお)される。

 柊先輩はふとわたしから視線を逸らすと、ふちの方へ歩んでいった。
 御影を目に入れないまま、悲しいほど澄んだ空を仰ぐ。

 その境界は何だか曖昧だった。
 後ろ姿と空の色のコントラストははっきりしているのに、輪郭が淡くて霞んでしまいそう。

「春野さん」

 ふいに呼ばれてはっとした。
 そこにいままでみたいな甘い響きはない。

 半分だけ、彼が振り向く。

「本来の“今日”、死ぬはずなのはきみだった。そのことは知ってる?」

「まさか、本当に……?」

 郁実がわたしを庇って亡くなっていることには確かに気づいていた。

 わたしか、郁実か、あるいはどちらもが命を落とす運命なんじゃないかと、御影と話して漠然(ばくぜん)と考えていた。

 そんな手探りの憶測にいま答えが返ってきたのだ。

 本来死ぬはずだったのは、ほかでもないわたし────。

「知らなかったんだ? じゃあいつから記憶があるんだろう」

「わたしが覚えてる限りでは、最初から郁実が代わりに……」

 うつむきかけた顔をもたげ、たまらず踏み出していた。

「教えてください……。わたし、本当はどうなるはずだったんですか? 最初はどうやって……?」

 震える声で紡ぐと、彼はまた目を落とした。

「最初は────きっと不運な事故だったんだと思う。帰り道、春野さんは自転車に当たられて、車道に飛び出した」

「そこで轢かれた……?」

「いや、それを玲が……俺の妹が庇ったんだ。そのせいで代わりに死んだ。きみの代わりに」

 その口ぶりからして、彼自身が現場に直接居合わせたわけではなさそうだ。
 淡々としていた声にだんだんと熱が込もっていく。

 怒りのような恨めしさのような、そんなやるせない感情に満ちた眼差しを突き刺される。

「そんな……」

「だけど、絶望する俺の前に天使が現れたんだ。彼女は言った。玲じゃなく春野さんが死ぬのが正しい本来の“今日”だ、って」

 動揺を隠せないで瞳が揺れるのを自覚した。
 脳裏(のうり)に真白さんの姿がよぎる。

『彼には会わせないって言った』

 そして指を鳴らすと同時に、わたしは空中へ投げ出されていたのだ。
 確かにあのとき、真白さんに殺された。

 それは、もしかすると運命を修正しようとしたからだったのかもしれない。

 恋だとか嫉妬だとかそんな軽率な理由じゃなくて、天使としての使命を全うしようとした?

 一度目にわたしが生き延びてしまったことで歪んだ運命を、元に戻すために……?
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