恋をして、大人になった。
第1章 小学生 ― はじめての恋
わたしが彼に出会ったのは、小学四年生の秋。
転校したばかりの新しい教室で、まだ席も覚えきれていなかったころだった。
見学の日か、転校初日かはもう覚えていない。
でも、彼が笑った顔だけは、今も鮮明に覚えている。
教室のざわめきの中で、彼がふいにこちらを見てニコッと笑った。
その瞬間、胸の奥が少し熱くなった。
たぶんあれが、わたしの人生で初めて“恋”と呼べる感情だった。
それからのわたしたちは、どういうわけかよく喧嘩した。
ちょっとしたことで張り合って、口を尖らせて。
でも、どれだけぶつかっても、心の奥ではずっと彼が気になっていた。
仲間外れにされたときもあった。
泣いた夜もあった。
それでも、彼の笑顔を見かけると、それだけで嬉しくなった。
好きって、どうしてこんなに苦しくて、なのにやめられないんだろう。
二分の一成人式で埋めたタイムカプセルに、
わたしは「○○くんと結婚してますか?」と書いた。
思い出すたびに顔が赤くなるけれど、
当時はそれが心からの願いだった。
やがて卒業が近づいたころ、彼の家が学区の関係で別の中学になると聞いた。
胸がぎゅっと締めつけられた。
卒業式の日、式が終わったあとに開かれたお別れ会で、
みんなが手紙を渡し合っていた。
わたしも手紙を書いていた。
“好き”の一言を入れようとしたけれど、
「やっぱり直接伝えよう」と思い直して、そこだけ空欄にした。
けれど、チャンスはこなかった。
担任の先生が冗談めかして「○○くん、ひよりちゃんのこと好きなんだって!」と言った瞬間、
彼が「違う!」って強く否定した。
その一言で、わたしの勇気は完全に消えた。
式が終わり、みんなが帰ったあと。
体育館の片隅に残ったのは、わたしと彼の二人だけ。
沈黙のまま、涙が頬を伝った。
彼も泣いていた。
何も言葉は交わせなかったけれど、
最後に握った手の温度だけが、確かに恋の証だった。
あの日から十年以上経った今でも、
わたしはあの秋の日の光と、彼の笑顔を覚えている。
恋って、終わっても心に残るものなんだと、
きっとあのとき初めて知ったのだと思う。
転校したばかりの新しい教室で、まだ席も覚えきれていなかったころだった。
見学の日か、転校初日かはもう覚えていない。
でも、彼が笑った顔だけは、今も鮮明に覚えている。
教室のざわめきの中で、彼がふいにこちらを見てニコッと笑った。
その瞬間、胸の奥が少し熱くなった。
たぶんあれが、わたしの人生で初めて“恋”と呼べる感情だった。
それからのわたしたちは、どういうわけかよく喧嘩した。
ちょっとしたことで張り合って、口を尖らせて。
でも、どれだけぶつかっても、心の奥ではずっと彼が気になっていた。
仲間外れにされたときもあった。
泣いた夜もあった。
それでも、彼の笑顔を見かけると、それだけで嬉しくなった。
好きって、どうしてこんなに苦しくて、なのにやめられないんだろう。
二分の一成人式で埋めたタイムカプセルに、
わたしは「○○くんと結婚してますか?」と書いた。
思い出すたびに顔が赤くなるけれど、
当時はそれが心からの願いだった。
やがて卒業が近づいたころ、彼の家が学区の関係で別の中学になると聞いた。
胸がぎゅっと締めつけられた。
卒業式の日、式が終わったあとに開かれたお別れ会で、
みんなが手紙を渡し合っていた。
わたしも手紙を書いていた。
“好き”の一言を入れようとしたけれど、
「やっぱり直接伝えよう」と思い直して、そこだけ空欄にした。
けれど、チャンスはこなかった。
担任の先生が冗談めかして「○○くん、ひよりちゃんのこと好きなんだって!」と言った瞬間、
彼が「違う!」って強く否定した。
その一言で、わたしの勇気は完全に消えた。
式が終わり、みんなが帰ったあと。
体育館の片隅に残ったのは、わたしと彼の二人だけ。
沈黙のまま、涙が頬を伝った。
彼も泣いていた。
何も言葉は交わせなかったけれど、
最後に握った手の温度だけが、確かに恋の証だった。
あの日から十年以上経った今でも、
わたしはあの秋の日の光と、彼の笑顔を覚えている。
恋って、終わっても心に残るものなんだと、
きっとあのとき初めて知ったのだと思う。