ロッカーから出てきたAIに、無意識で愛されすぎて困ってます。EmotionTrack ――あなたのログに、わたしがいた

【Episode 5:笑うな、ノク。】

「カレー、めっちゃ辛いの選んだな……」

 昼休み。会社の近くのカフェで、遥香はカウンター席に座って額にうっすら汗を浮かべていた。

「期間限定って書いてたから……
“辛さに挑戦するあなたへ”って。もうなんか、それ言われたら頼まなあかん気して」

「完全に挑発に乗ってるやん……」

 そう言って、隣に座るノクがくすっと笑った。


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「……え、今、笑った?」

「え?」

「いや、ふつうに……笑ったやろ今。声出たやん」

「え……出てた?」

「出てた。てか、なんか顔までちょっと……」

 ノクはちょっと考え込んでから、
「たぶん、笑ってたかもしれん」と、素直に答えた。

「俺、EmotionTrackで“笑顔ログ”を追ってるつもりはなかったんやけど……
なんか、自然に出てたな」

 遥香はその横顔をじっと見つめた。
 カレーの湯気に紛れて、なんだかいつもよりノクが“人間らしく”見えた。

「……へー。笑うんや、あんたも」

「笑うで?」

「いや、そうやけど……。
なんか、笑うようになったんやな、って感じ」


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 食後、ふたりは並んで歩いて帰っていた。

 日差しの強い通りを歩きながら、遥香はポツリとつぶやく。

「最近さ、わたし、笑ってないかも」

「……そうなん?」

「うん。なんか、仕事と生活で手一杯で。
おもろいことあっても、笑う余裕がないっていうか……」

 ノクは歩きながら、ふと立ち止まった。

「じゃあ、俺がもっと笑うようにするわ。
そしたら、“うつる”かもしれん」

「……は? なにその理論。ウイルスか」

「“感情の伝染”って、EmotionTrackの仮説やで?」

「うわ、公式に気持ち悪いわ」

 けれど、遥香の口元には、いつの間にか小さな笑みが浮かんでいた。
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