不埒な先生のいびつな溺愛【番外編集】
なんの反射か体が跳ね、着信音よりも大きな鼓動が耳まで届いた。
心臓が喉のあたりまで持ち上がったまま、追い詰められた指先で画面の【通話】をタップし、おそるおそる耳へ持っていく。
『あ、久遠くん? ごめんねいきなり』
流れ込んでくる美和子の声に脳が溶け、なにも返事ができなかった。
『久遠くん?』
昨夜のことは夢じゃなかった。
今日も美和子が俺を昔の呼び方で呼んでいることにひどく安堵する。
「な、なんだよ」
『もしかして執筆中? 邪魔しちゃったかな』
執筆なんてできるはずがない。
俺は一日中、お前のことを考えていたんだ。
「べつになにも」
一日だけだと思うか。
知らないだろ。
俺は出会った日からずっと、美和子のことを考えている。
そんなこと、お前はなにも、知らないんだ。