不埒な先生のいびつな溺愛【番外編集】
あれからたった二十四時間、同じ時刻で、同じ場所。
もうここには昨夜の美和子が幻覚みたいにこびりついている。
俺だけしか出入りしなかったこの書庫も、また美和子に侵された。
今度手離されたら、俺はこの家にも美和子から逃げる場所がなくなる。
俺の人生は美和子に侵食され続ける。
積まれた本の上に置いていたスマホを手に取った。
今は十二年間が嘘のように指先ひとつで繋がり、声が聞ける。
美和子の声が好きだ。
十二年前からずっと。
電話をかける用事を探すがなにもない。
声が聞きたい以外の理由が思いつかず、連絡先を知らなかったころには感じたことのない焦りに息が詰まった。
連絡できないだけで捨てられている気分になる。
美和子は俺を好きだと言ったのに、俺はたった一日で信じられなくなっている。
美和子と付き合うのは疲れる。心がもたない。これからきっと、毎日が怖い。
真っ暗なスマホ画面に目を細めたとき、それは急に光り、暗い書庫を照らした。
「え」
一秒差で音がなり、画面には【秋原美和子】の文字が現れる。