不埒な先生のいびつな溺愛【番外編集】
『よかった』
「……で、なんだよ。急に」
『あのね……こんなこと言ったら、久遠くんは困っちゃうかもしれないんだけど』
美和子はそこで少し言いよどむ。
数秒の間を置かれただけでまた怖くなった。
なんで電話してきたんだ。
いつもはかけてきてすぐ事務連絡に入るのに、様子もおかしい。
「な……なん、だよ。なに?」
俺が困ることってなんだ。
やっぱりやめるとでも言うつもりか。
胸が痛くなり、右手でワイシャツの胸を握りつぶす。
美和子ならやりかねない。
十二年も俺を地獄に置き去りにした。
昨夜垂らした蜘蛛の糸を、今度はあっさり切られるのかもしれない。
『久遠くんの声が聞きたくて……電話しちゃった。ごめんね』
「……え」
『久遠くんてこういうの、嫌な人?』
変な声が漏れそうになり、自分の口を塞いだ。
呼吸もうまくできない。
手を胸に戻してさらに強く握りつぶし、目を閉じて、 耳もとで呪いをかけてくる美和子に耐える。
「嫌じゃ……ない」
うれしい。うれしい。うれしい。
俺にこの感情を湧き上げてくるのは、これまでの人生で美和子しかいなかった。