明治、契約の夜に咲く恋─御曹司の溺れるほどの愛
「ここにいたのか、珠緒。」

その声はあの時と同じように優しかった。

「珠緒。会いたかった。」

そっと抱きしめられ、甘い匂いが鼻につく。

ああ、旦那様の匂いだ。

そして旦那様は、ゴホゴホと咳をした。

「大丈夫ですか?旦那様。」

そう話しかけると、旦那様はにこっと笑ってくれた。

「そう言えば、風邪をひいていたのだった。近いうちにまた来る。」

旦那様はそう言って、去って行った。

旦那様。ちょっと見ないうちに、痩せていた。

元気になればいいけれど。


そして翌日、仕事を終え帝大から帰ろうとした時だ。

「ねえ、あの方。誰か待っているのかしら。」

「やだ、カッコいい。声を掛けてみようかしら。」

女性がきゃっきゃっと騒いでいたので、その視線の先を見た。

「だ、旦那様!」

「ああ、珠緒。迎えに来たよ。」

そう言って旦那様は、私の元にやってきた。
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