運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
「まっ、待ってくださいっ」

 しかし、テオの姿はあっという間に兵士の波に埋もれた。遠征帰りの兵士たちが、指揮官からの解散の声を待つように立ち止まったまま、大声で談笑を始めてしまったからだ。

 血や汗の匂いにまぎれて、酒の香りがツンと鼻につく。もしかしたら、彼らはここで酒盛りを始める気かもしれない。

 このままでは迷子になる。目を離すなと言っておきながら、アレクの姿すら見えなくて、セレナは一気に不安になった。

「テオさんっ、テオ……」

 叫んだとき、いきなり後ろから伸びてきた手に腕をつかまれ、ヒィッと息を飲む。

「手を焼かせるな」

 ハッとして顔をあげる。腕をつかんだまま、怒りをあらわにこちらを見おろしているのは、アレクだった。

「あ……アレク殿下……」
「ほう、俺をアレクと呼ぶのは限られた者だけなんだがな」

 ぎゅっとつかまれた腕から、いらだちが伝わってくる。

「す、すみません……アレク……アレクシス殿下」
「ふんっ。テオは領主館へ向かわせた。メルン卿は我が第一騎士団に負けずとも劣らない兵力の持ち主だ。いらぬ騒ぎは起こすなよ」
「はっ、はい」
「……まったく、とんだ拾い物をしたものだ」

 本当は、お目当てのものを捕まえて、意気揚々と帰還するはずだったのだろう。こちらに向けられた冷たいまなざしをどうにか緩めたくて、思わず、余計なひとことが口から漏れる。

「魔物じゃなくて、すみません……」
「それでも冗談のつもりか。くだらない」

 アレクはわざとらしくため息をつくと、セレナの手を引いて歩き出す。すると、雑踏がサッと開き、できあがった一本道の先に、大きな屋敷が見えた。
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