運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
「あの……」

 こそこそと移動していると、不意に後ろから声をかけられた。セレナはビクッと肩を揺らす。早速、婚約者候補に見つかってしまったかもしれないと、身構えて振り返るが、拍子抜けするほどにおどおどとした令嬢が青ざめて立っていた。

「えっと……、何か……?」

 けげんそうに尋ねると、彼女は口をキュッとつぐんでしまう。人見知りなのだろうか。こちらから話題を振っても一向にかまわないのだが、今はとにかく目立ちたくない。

「用がないなら、私はここで……」

 そそくさと逃げ出そうとすると、ぎゅっとスカートをつかまれて、セレナは思わず転びそうになった。あわててテーブルに手をつくと、ガシャンっと食器が跳ねて、周囲の視線を集めてしまう。しまった。これでは悪目立ちしてしまう。

「は、離してください……ませんか?」

 スカートを引っ張ってみるが、ちっとも手をゆるめてくれる気配がない。困った。だんだん周囲に人がさりげなく集まってくる。この静かな攻防戦に興味津々なのだろう。

「私、ちょっと急いでいて……」

 とにかく逃げ出したい一心で、ぐいっとスカートを引っ張ったとき、人だかりの中から聞こえよがしのひそひそ声が聞こえてくる。

「またクラリス様だわ。お相手は新入りの方かしら。かわいそうに、困ってますわ」
「恥をかかせようとしたのかしら。クラリス様は本当に意地悪だこと。サマセット公爵も、残った娘があれではお気の毒ね」

 周囲の批判を恥じるように、彼女はスカートから手を離した。
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