運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
「……えっと、では、クラリス……、お姉さんのメアリー様にどんな不幸が起きたのか、聞いてもいいですか?」
「はい、セレナ。……メアリーお姉さまの婚約が決まりましたのは、五年ほど前のことです」

 クラリスはそう切り出すと、まるで五年前の風景を思い起こすようなまなざしで、窓の奥に広がる庭園へと目を向けた。

 アレクシス・アルナリア王太子殿下は二十歳で、二歳年上のメアリー・サマセット公爵令嬢と婚約した。生まれながらの婚約者と言ってもいいメアリーとの婚約は、平和なアルナリアでもっとも喜ばしい慶事だと祝福された。

 しかし、メアリーは三ヶ月後、一方的に婚約破棄を宣言する。

「お姉さまは、見た……とおっしゃいました」
「見た……って、何を?」

 真剣なまなざしのクラリスを、セレナはごくりとつばを飲み込んで見つめ返す。

「黒い……それは闇よりも黒い……影だったそうです」
「影……?」
「……はい。毎夜……、アレク様との婚約が決まったその日から、毎夜現れたそうです。髪の長い、真っ黒な女の影が……」

 クラリスの視線が後方にずれるから、セレナはぞくっと身を震わせて振り返る。彼女の視線が向かう先には、豪奢な鏡が飾られている。

「あれは、メアリーお姉さまのお部屋に飾られていた鏡です。はじめの頃は、ちらちらと影が映ったそうです。気にしないようにしていたそうですが、その影は日増しにはっきりと現れるようになって……」
「この鏡が、そのときのものなんですか?」
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