運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
「ノーデルというと、王都の北に広がる平原ですよね?」

 以前、リディアに見せてもらった地図を思い出しながら、セレナは尋ねた。うなずいたテオは、おもむろに白い雲の浮かぶ空へ目を移す。

「ノーデル平原の住人から、ひと月ほど前に川が枯れ、作物が育たないとの訴えが続いているんですよ」
「川が枯れた原因は、魔物なんですか?」
「ええ。兵を派遣し、討伐にあたってはいるんですが、解決のめどはいまだ」
「それなら……、雨が降るといいですね」
「そう願ってますが、もともと雨の少ない土地ですから、これ以上は我々にも……」

 小さなため息をついて、テオは嘆くように首を振る。セレナはふと、北の空を仰ぐ。

「あれ……?」
「何かございまして?」

 リディアがふしぎそうに、同じように空を見上げる。

「さっきまで、真っ白な雲があったんだけど……、ほら、見て」

 セレナは雲を指差す。遠くに見える白い雲は、いつの間にか灰色を帯び、高く積み上がっている。裾野はじわりとにじむように広がり、重たい影を落としはじめているように見える。

 あと、三十分もすれば、雨が降るんじゃないかしら?

「あの雲がどうかしましたの?」

 リディアが首をかしげる中、セレナはとっさに老人のもとへ走り寄る。

「ノーデルの街があるのは、あの雲の辺りですか?」

 老人は顔をあげると、うつろな目を空へと移す。

「いいや、もっと奥じゃ」
「奥……」

 そうか。あそこで降っても、ノーデルには届かないのか……。
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