運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
「そんなこと言われても……」

 セレナは両手を見つめてみるが、何もできる気がしなくて途方にくれてしまう。

「おや、できないのですか? 無詠唱で魔法を操るほどの力をお持ちながら」
「無詠唱って……?」
「その言葉通り、詠唱……つまり、呪文を唱えることなく、あなたは雲に魔力をぶつけ、大雨を降らした。アルナリアでは、ただお一人の方を除いて、そのようなことができる貴重な人間はいないでしょう」

 無詠唱だの貴重だの言われても、セレナは戸惑うばかりだった。

「それとも、あなたが人間でないならば……話は変わりますが?」

 じっと見つめられて、セレナはびくりと肩を揺らした。アレクが煙たがるオリオンという男は、決してあなどれない。おそらく、ごまかしだって聞かない。

 だいたい、あのパーティーの夜の出来事を、自分たち以外で知る者はエマだけなはず。エマが軽々しく、アレクとのダンスを誰かに語るはずがない。オリオンがどこで情報を手に入れたかは想像するしかできないが、ずっと前から監視されていたと考えてもいいだろう。

「あの……、オリオンさんはいろんなところに目や耳があるんですか?」

 尋ねると、オリオンは細い目を大きくして、おかしそうに笑った。

「これはまた大胆な問いです。いやぁ、さすが、アレク様がお気に召しているだけありますねぇ。……いいでしょう。隠す必要は何もありません」

 オリオンは右のひらを上に向けると、低く響く声で何ごとかをつぶやいた。空気がビリッと震え、彼の手のひらの上に黒いもやが渦を巻く。もやの中で光がひとつ、ふたつと灯り、やがて青白い炎が揺らめきはじめる。
< 69 / 177 >

この作品をシェア

pagetop