離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 その表情にたまらなくなったフィリクスはおもむろに手を伸ばし、アリシアの髪に触れた。
 アリシアは目を閉じて、びくりと身を震わせる。
 その反応に、彼の理性は限界を超えた。

(もう無理だ。自分に正直になろう)

 フィリクスはアリシアの髪に触れながら、彼女にそっとささやく。

「アリシア」

 反応がなく、しばらく経つとかすかに寝息が聞こえてきた。
 フィリクスは呆然として、思わず上半身を起こす。

「まさか、寝たのか?」

 アリシアはぐっすりと眠りに落ちていた。
 その表情は穏やかで、口もとにわずかな笑みを浮かべている。
 すっかり安心しきっている顔だ。

 フィリクスは額に手を当てて深いため息をついた。

「はぁ……どうして眠れるんだ? 君のメンタルはすごいな」

 フィリクスは困惑の表情を浮かべながら、アリシアの髪を優しく撫でる。
 そして彼女の顔に触れたくなり、伸ばした指先を寸でのところで制止した。

(いつの間に、こんなに愛おしい存在になっていたのだろうな)

 ぼんやりとそう思いながら、彼はアリシアの離婚申請のことを思い出す。

(離婚はしたくない。どうすれば、これから君を振り向かせることができるだろう?)

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