離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアとばっちり目が合ってしまい、目を見開いたまま硬直する。
 視線をそらすことができず、お互いに見つめ合ったままだ。
 窓から月明りがこぼれる。灯りを消したのにアリシアの顔はやけに白く輝いて見える。

(なぜ今夜は満月なんだ? 明るすぎるだろう)

 フィリクスは月に対して腹を立てた。
 アリシアの頬がじわりと赤く染まり、その視線はふいっとよそへ向いた。

「あの、すみません……見て、しまって……」

 フィリクスの上半身のことを言っているのだろう。
 慌てて返す。

「構わない。君は、妻だから」
「……はい」

 フィリクスは仰向けになり、自分の髪をくしゃくしゃとかきむしる。

(まいった。眠気が吹っ飛んでしまった。それにしても、このベッドは狭すぎるだろう)

 どうにか気を紛らわせるために話題を振る。

「王都の屋敷では、ちゃんと君の部屋を用意してある。だから、安心していい」
「……はい」
「部屋はいくつもある。安心していい」
「……はい」
「睡眠は大事だ。屋敷に着けばゆっくり眠れるだろう」
「……旦那様」
「な、何だ?」

 急にアリシアが呼びかけたので、フィリクスはどきりとして再び横へ向いた。
 アリシアはこちらに顔を向けてじっと見つめている。
 月明りに照らされて、白く輝く彼女の姿に、フィリクスの理性は限界だった。

「お気遣い、ありがとうございます」

 アリシアはそう言ってやわらかく微笑んだ。

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