離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 侯爵家の別邸に到着すると、数人の使用人が出迎えた。
 この屋敷はフィリクスの遠征での功績が認められ、国王から与えられた褒美の一つである。

「長く使われていなかった屋敷を修繕したから少し古いが我慢してくれ」
「十分です。思っていたよりずっと綺麗です」

 アリシアは邸宅内を見まわしながら笑顔で答えた。
 外観の壁には修繕の跡が残り、年季の入った造りが見えるが、内装は丁寧に整え直されている。足下に敷かれた絨毯も新調したようだ。

「ここが君の部屋だ」

 案内された部屋はシンプルだったが上品な家具が並び、新しいシーツがかけられたベッドが一つ、そして窓際には花が活けられた花瓶が飾られていた。

「素敵です。ありがとうございます」
「俺はとなりの部屋だ。少し休むから、何かあれば呼んでくれ」
「はい。ごゆっくりお休みくださいませ」

 フィリクスが出ていってから、アリシアはもう一度部屋を見わたし、窓際の花を見て少しほっとした。

(使用人の方が飾ってくれたのかしら。気遣いが嬉しいわ)

 アリシアはベッドに腰を下ろした。
 昨日まで宿泊した宿よりもずっと広いベッドだが、侯爵家の自室とそれほど変わらないのにやけに広く感じる。

 アリシアはごろんと横になると、昨夜までの出来事を思い出した。
 間近にいるフィリクスの姿を思い浮かべるたびに胸がざわつき頬が熱くなる。

(もうご一緒できないのね)

 ほんの少し、寂しく思った。

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