離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「あれが奥様か。若いなあ」
「ずいぶん可愛いらしい奥様だ」
「お近づきになりたい」

 頬を赤らめながらそんなことを言う男性たちに向かって、今度はフィリクスが思いきり睨みつけた。 
 すると彼らはおずおずと立ち去っていった。

(アリシアをひとりにしてはいけない。いろんな意味で)

 フィリクスが険しい表情で周囲を睨んでいるので、アリシアが不安げに声をかけた。

「旦那様、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。俺は大丈夫だ」

 アリシアはわずかに首を傾げる。
 フィリクスの内心は穏やかではなかった。
 ひとりで参加するときは周囲の目などまったく気にならない。むしろ周囲からある程度距離を置いて適当に過ごしていたのに。
 今夜はそうもいかない。
 アリシアとふたりでいることで目立つし、何より周囲の視線がアリシアに向いていることに危機感をつのらせている。

(美しい妻を自慢したい気分だが、あまり見られたくはない。この矛盾する感情をどうにかできないだろうか)

 フィリクスが遠目でぼんやりしているので、アリシアはますます首を傾げた。

(旦那様はまだ寝不足なのかしら?)

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