離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスはアリシアにだけ微笑んで、すっと手を差し出した。
 アリシアは頬を赤らめながら静かに立ち上がり、その手を取る。
 そして、令嬢たちに向かって笑顔で挨拶をした。

「お話してくださって、ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」

 令嬢たちは呆気にとられている。ぽかんと口を開けたまま驚いた者や、口もとに手を当てたまま目をぱっちり開けた者、誰もが言葉を失っていた。

 フィリクスは令嬢たちに真顔で軽く会釈をしたあと、アリシアの手を握ってその場を去った。

 残された令嬢たちはしばらく放心状態だったが、ひとりがハッとして別の令嬢に八つ当たりぎみに言った。

「誰よ? 離婚危機だって言ったの」
「わたくしではないわ」
「見せつけているだけよ。家庭内はわからないものよ」
「でも、あの侯爵様があんな顔をされるなんて」
「ええ、笑っておられたわよ。今まで一度も拝見したことないわ」
「ああ、なんということなの。狙っていたのに」
「まあ、あなた。それは図々しいわよ」
「あたくしのほうが夫人より女らしい自信があるわ」
「ここにいるみんなそう思っているでしょう」

 冷めた紅茶の前で、令嬢たちは嫉妬と敗北感を味わいながら、しばらくアリシアの悪口で盛り上がるのだった。

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