離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「でも、アリシア様の表情を見ればわかります。楽しい旅でしたのね?」
「ええ、とっても。楽しかったわ」

 フィリクスはあの夜を除けば、紳士的で優しかった。
 王都観光でもアリシアの好きな場所に連れていってくれたし、フィリクスのお気に入りの店も教えてもらった。

「このままずっと、この生活を続けるのも悪くありませんわ」
「……ええ、そうね」

 エレナの言葉にすんなり同意してしまった。
 アリシア自身の気持ちはすでに、離婚から遠ざかっている。
 ただし、懸念があった。

「私がここにいると、叔父様はずっとお金をせびってくるかもしれないわ。もしかしたら、何かよくないこともしているかもしれないのに」

 叔父のグレゴリーがあやしい商売をしていることや、素性の知れない者と繋がっていることを、アリシアは漠然と把握している。
 実家を追い出される前に、両親とは縁のないような人たちが頻繁に出入りしていた。すべて叔父の知人だったが、アリシアは来客のあいだ部屋に閉じ込められていた。

(これ以上叔父様を旦那様に関わらせてはいけない気がする)

 アリシアがひとり考え込んでいると、エレナがそっと声をかけた。

「旦那様は男爵のことをよくわかっておられますわ。それなりにきちんと対応できると思いますので、アリシア様がご心配されることはないかと」
「そうだといいけれど……」

 アリシアは不安を抱きながらエレナを見つめた。

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