離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「視察ですか?」
「ああ。デートル伯爵領に招かれているんだ。彼の事業について興味があって一度訪れたいと思っていた」
「そうですか」

 久しぶりに庭園でお茶でも飲もうとフィリクスから誘われ、嬉しくて舞い上がっていたアリシアは、ふいに長期の留守を告げられ、戸惑いを隠せなかった。
 一緒に行きたいと思ったものの、フィリクスからそんな誘いはなかった。

(当たり前だわ。お仕事だもの。何を期待しているのかしら)

 フィリクスは静かに紅茶を飲みながら、穏やかな口調で続ける。

「それほど長くならないようにする。遠征に比べればたいしたことはない」
「そうですね」
 
 アリシアはわずかに微笑み、静かに紅茶を口にする。
 それでも胸中はざわめいていた。
 あのときと今では心境があまりにも違う。そのことに、アリシア自身も驚いている。

(戦にいくわけでもないのに、なぜこんなに心配になってしまうのかしら?)

 いつの間にかフィリクスの存在がこんなにも大きくなっていた。
 アリシアはようやくその想いに気づき始めていた。

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