離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスが視察に出かけてから20日が経った。
 予定通りなら、そろそろ伯爵領を発つ頃だ。

 アリシアはそわそわと落ち着かなかった。
 服装や髪型が気になって仕方がなく、お茶を飲んでいても、書物を読んでいても心ここにあらずといった感じで、じっとしていられなかった。
 庭へ出て散歩したり、部屋の中を立って歩いたり、バルコニーに出てみたりと、落ち着かない自分にもそわそわした。

 そんなアリシアに、エレナは紅茶を淹れながら笑顔で声をかける。

「お戻りが楽しみですね」
「ええ。ごめんなさい。落ち着かなくて」
「お気持ちはわかりますわ。スコーンを召し上がりますか?」
「ええ、そうね」

 アリシアは紅茶を飲みながらひと息ついた。
 そしてスコーンを見てふと思いつく。

「アップルパイを焼こうかしら」
「それはいいですね。アリシア様のアップルパイはとても美味しいですもの」
「じゃあ、さっそく厨房を借りるわ」

 アリシアは紅茶を飲み干す前に立ち上がり、そそくさと部屋を出ていった。

 ちょうど部屋の前に来ていたセインが、アリシアの出ていく姿を目にする。
 部屋に入室したセインはエレナを見て、ため息まじりに言った。

「落ち着かない様子だな」
「楽しみでならないのよ」
「ふん。ところで、離婚申請はどうなった?」
「え? ああ、あれね。たぶん……」

 エレナは意味ありげにふふっと笑った。

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