離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 順調なら3、4日もあれば帰ってくるはず。
 ところが5日が過ぎても、フィリクスの馬車は正門に現れなかった。

「視察が延期になっているのでしょうね」

 エレナがやわらかく言った。

「まあ、よくあることだ。以前は半月延びたこともあった」

 セインも平然としていた。

 以前ならフィリクスがどこへ出向こうと気にも留めなかった。
 いつの間にか姿がなく、また、いつの間にか戻っている。
 そんな存在だった。
 けれど、今は違う。

 せっかく作ったアップルパイを見て、アリシアは切なくなった。

「また作ればいいわ」

 アップルパイは腐ってしまう前にみんなで平らげた。
 ところが、一週間が経ってもフィリクスは帰ってこなかった。

「ずいぶん延びているのね」

 今のフィリクスなら、もし滞在が延びるならきっと手紙を寄こすはずだ。
 けれど、それらしい便りは一向に届かなかった。

 やがて、天候が崩れがちな日が続いた。
 嵐の兆しが空に満ち、風の冷たさも増していく。

 ひと月が過ぎる頃、さすがに屋敷の者たちの間にも、不安な空気が漂い始めた。
 アリシアは意を決し、伯爵領宛てに手紙を出した。

 一方、セインは嵐の季節に備え、領地周辺の状況確認のために屋敷を空けることが増えていった。

 そして、アリシアが手紙を出してから数日後のこと。
 侯爵家に一つの知らせが届いた。

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