離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 その夜、アリシアはほんの少しだけ食事を口にした。
 落ち込んでばかりもいられないと自分に言い聞かせながらも、この短期間に起こったあまりに多くの出来事に心が追いついていない。
 緊張と不安が続いて、体はずっと強張ったままだ。

 お茶を淹れていたエレナがアリシアの震える手に気づき、静かに声をかけた。

「アリシア様、大丈夫ですか?」
「ええ。でも、少し怖いわ」
「不安はわかります。私はずっとおそばを離れませんから。何かあればすぐに声をかけてくださいね」
「ありがとう」

 アリシアは紅茶をひと口飲み、おもむろに不安を口にする。

「当主の立場を理解するなんておこがましいけれど、旦那様の背負っているものの大きさは身に沁みて感じるわ」

 負債を抱え、さらに嫁いだ妻の処遇を考慮し、領地管理もしなければならない。遠征から戻って息つく暇もなかっただろう。
 アリシアはそのことを考えると、自身の行動を恥じてしまった。

「私は本当に何も知らなかったのね。それなのに、口を利いてもらえないからって離婚を切り出すなんて、幼稚で浅はかだったと今は思うの」

 フィリクスの抱えているものが一体どれほどの重圧だったか、アリシアは考えるだけで途方にくれるのだった。

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