離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスは領民たちに腰が低く、妻に対しても偉ぶることはない。
 それは決して臆しているわけではなく、相手を尊重しているのだろう。

「今になってこんなに、旦那様のことを理解できるなんて」

 アリシアは涙が出そうになり、とっさに顔を上げて天井を仰いだ。
 エレナがそっとアリシアの肩に手を添える。

「遅すぎることはありませんわ。無事にお戻りになられましたら、そのお気持ちをお伝えすればいいのです」
「ええ、そうね。早くお帰りにならないかしら」

 アリシアは涙を堪え、わずかに口角を上げた。
 今は無理してでも笑っていたかった。そうしなければ、脆くなってしまった心が壊れてしまいそうだったから。
 不安は尽きないけれど、彼の無事を信じたいと思った。

(会いたい。旦那様に会いたい。次に会ったら、今の気持ちをすべてお話するの。どうか無事でいて)

 アリシアは眠るときも、朝目覚めたときも、フィリクスの無事を願って祈りを捧げた。
 ところが、アリシアのその願いは無惨にも打ち砕かれる。

< 137 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop