離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 そして、その日はやってきた。
 アリシアは人生で初めて純白のドレスに身を包んだ。
 鏡の中に立つ自分は、まるで誰かに着飾らされた人形のように見えた。
 気の抜けたように肩が落ち、目もとには生気がない。
 そこに映るのは、幸せな花嫁ではなく、逃げ場を失った令嬢だ。

 エレナが静かに、アリシアの背後に立って髪を結い上げている。
 かすかに甘い香油の香りが漂い、それが余計にアリシアの心を苦しめた。

(本当はこの姿を旦那様に見せたかった。旦那様のためにドレスを着たかったわ)

 鏡に映る自分を見つめながら、アリシアはかすれた声で言う。

「そんなに整えてくれなくていいわ。どうせ、笑うこともできないのに」

 するとエレナは、微笑を浮かべながら答える。

「いいえ。どんなときでも、どんな状況でも、アリシア様を美しく保つこと。それが私の仕事です」
「……エレナったら」

 苦笑とともに、ため息がこぼれる。
 エレナはそっとアリシアの肩に手を置き、やわらかく語りかけた。

「アリシア様。どんなときも、希望を捨ててはいけません」

 一瞬、アリシアの眼差しが揺れる。
 鏡に映る自分の顔を見つめながらゆっくりと頷く。

「……わかっているわ」

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