離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「旦那様がそれを望んでいるとは思えませんけど」
「そうかしら? もう3年も口を利いてもらえないのよ」
「照れ屋さんなんですよ」

 にっこり微笑むエレナを、アリシアは真顔で見つめた。
 するとエレナはこほんっと咳払いをして話題を変えた。

「ところで今日は夕方までのお仕事ですか?」
「今日は少し遅くなるかもしれないわ。感謝祭の準備も手伝うことになっているの」

 秋の収穫を祝い、町は祭りムード一色となる感謝祭。遠方から旅人や商人も集まり、多くの露店が並ぶ。

「頼まれていた刺繍は集まっておりますよ。装飾品もそろそろ出来上がる頃でしょう」
「ありがとう」

 アリシアは毎年この感謝祭で出品する商品を自作している。このたびは使用人たちがみんなで刺繍をしてくれたので多くの品が出来上がった。
 耳飾りやネックレスなどの装飾品は知り合いの細工職人に頼んでいる。

 嫁いですぐに始めた商売だが、今では常連客も抱えて軌道に乗り、フィリクスが帰還した今は給仕の仕事を減らしている。

 さすがに夫の目もあるので、毎日町へ出かけることはしなくなった。とはいえ、彼は妻が外で何をしていようとまったく気にも留めていないだろう。

 アリシアはいつものように茶色の素朴な服を着て、裏口から荷馬車に乗り、町へ出かけていった。

< 18 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop