離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアはそっとフィリクスを見上げ、頬を赤く染めながら、ためらいがちに口を開いた。

「では……今すぐ、その……していただけますか?」
「えっ……?」

 ふいを突かれたフィリクスは、一気に赤面し、戸惑うように目を泳がせた。
 けれど、アリシアがまっすぐ見つめていると、やがて彼は息を呑んで視線を戻した。

 フィリクスはゆっくりと顔を近づけ、アリシアの頭を抱き寄せる。
 彼の指が髪を撫でるたびに、くすぐったいほどの愛しさが満ちて、アリシアはそっと目を閉じた。

 ほんの一瞬。
 触れるだけの、優しく、静かな口づけ。

 ふたりは名残惜しそうに唇を離し、それから同時に目をそらした。

「は、恥ずかしいです……」
「……誰も見ていない」

 その言葉に、アリシアは照れたように笑い、フィリクスもまた、やわらかく微笑んだ。

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