離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスの怪我が治り、ようやく動けるようになった頃。
 彼とアリシアは、これまで支えてくれた人々へ感謝の気持ちを届けるため、順々に訪問の旅へ出た。
 その途中、命を救ってくれたエシナ村にも足を運ぶことにした。

 この村は、外の世界との交流をあまり好まない。
 だからこそふたりは、貴族らしさを消した平民のような装いで村を訪れた。
 質素な衣服に身を包んだふたりを、村人たちは旅の途中に立ち寄った夫婦とでも思ったのか、果物や酒でもてなしてくれた。

 フィリクスは、かつて自分を看病してくれた村の長のもとを訪れ、礼を述べるとともに資金援助や生活を便利にする道具の提供を申し出た。
 しかし、長は穏やかに微笑みながら、その申し出を断った。

「金や物品などいらないよ。ここはみんな助け合って生きている。贅沢など望んでいない」
「しかし、ここは侯爵領だ。領主として放ってはおけない」
「一番の礼は、あんたがそっとしておいてくれることさ。これでも長をやっている身だ。あんたの気持ちは理解できる」

 フィリクスは彼の意向をしっかりと受けとめ、静かに頷く。

「しかし、そうだな……もし嵐でも来て作物がやられたら、水と食料は提供してくれるかい?」
「ああ、もちろんだ」

 フィリクスは目を細め、力強く頷いた。

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