離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 町は活気にあふれている。
 果物や穀物を扱う屋台が並び、パン屋の前には焼きたてのパンが山積みにされている。
 若者たちが重そうな樽を運びながら威勢のいい声を上げていた。
 通りのあちこちでは建物に飾りつけがおこなわれている。
 誰もが感謝祭の準備に追われ、忙しくしているようだった。


 通りに面した大きな大衆食堂。
 アリシアはここで、かれこれ3年ほど働いている。
 フィリクスが帰還してからは勤務日数を減らしていたが、それでも彼女が店に顔を出すたび、常連客たちはどこかそわそわとした様子を見せた。

「こんにちは」

 アリシアが明るく挨拶しながら店に入ると、待ちわびていた客たちが一斉に声を上げた。

「アリシア、待ってたよ!」
「最近見かけないから心配してたんだぞ」

 アリシアは申し訳なさそうに微笑みながら「ごめんなさい」と返し、ひとりずつ丁寧に対応していく。
 すると、店の奥から女主人のメルアが顔を出し、誇らしげに言った。

「アリシアは忙しいんだよ。別の仕事が軌道に乗ってきてね。そっちの人手が足りないんだ。でも、たまにこうして来てくれるから、本当に助かってるよ」

 ちょうどその時、奥の納戸から声が響いた。

「アリシア、来ていたのか!」

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