離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アップルパイを食べ終えたフィリクスは、ふと膝の上で指を組み、視線を落とした。
 寡黙な彼が言葉を選ぶとき、よくこんな仕草をすることを、アリシアは最近気づいた。

「アリシア、ひとつ訊いてもいいか?」
「はい」 

 アリシアは背筋を伸ばしてフィリクスの顔を見つめる。
 フィリクスはゆっくりと目線を上げ、アリシアと目を合わせて訊ねた。

「……離婚申請は、いつ取り下げてくれたんだ?」

 その問いにアリシアは目を見開く。
 離婚申請の取り下げをしていなければ、もしかしたらフィリクス死亡の偽証明で本当に離婚が成立していたかもしれない。

 アリシアはそのことを思い浮かべながら、正直に伝えた。

「王宮から戻ってすぐです。あなたとダンスをしたあの夜に、また次も一緒に踊りたいと思ったんです。それから、来年の感謝祭もご一緒したいと」

 離婚に迷い出したのは感謝祭の日だった。
 ずっと悩んで、そのことを考えて、ようやく決断を下したのは、王都への旅のあとだ。

 フィリクスは「そうか」と短く返答し、それ以上何も言わなかった。
 ただ、その表情には安堵の色が帯びていた。

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