離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 そんなふたりを遠くから見守っていたのは、セインとエレナだ。
 セインは相変わらず真顔だが、わずかに安堵したように嘆息した。

「やれやれ。これでやっと仕事のことだけ考えていられる」
「ふふっ、お疲れ様。でも、これからもおふたりを支えていきましょうね」
「これ以上、私情には口を挟まないぞ。俺は」

 アリシアが離婚を突きつけたあの日から、セインとエレナの計画が始まった。
 ふたりがお互いを強く意識しているのは、誰の目にも明らかだった。
 どうにか背中を押してやりたい。そう思ったエレナが、ある日セインに相談を持ちかけたのが、すべての始まりだった。
 セインは当初、乗り気ではなかったが、フィリクスの煮えたぎらない態度に業を煮やし、エレナの策に乗ることにした。

「俺はただ、余計な感情に振りまわされずに職務を果たしてもらいたいだけだ」
「そんなこと言って、あなたも結構楽しんでいたわよ」

 にっこりと微笑むエレナに、セインは真顔のまま一瞥する。

「楽しんではいないが、見ていて面白いとは思ったな」
「あなたも素直じゃないわね」

 セインは静かに嘆息し、くるりと背中を向けて歩き出す。

「あら、もう行っちゃうの?」
「俺は忙しい。主人が昼寝から起きたら、すぐにやってもらう仕事を準備しなければならないのでな」
「お疲れ様」

 エレナの声にセインは振り返らず、軽く片手を上げて歩いていく。
 その後ろ姿を、エレナは微笑みながら見送る。

 白いベンチには寄り添って眠る夫婦の姿。
 侯爵邸の庭園には穏やかな静けさと、どこか満ち足りた空気が流れていた。

 そして、これからも――


< 完 >
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