離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 その美味しさに感動したメルアから「ぜひ作り方を教えてくれ」と頼まれ、アリシアは快くレシピを渡した。

「やっぱり、アリシアの作るパイが一番美味いよなあ」

 常連客の素直な言葉にすかさず別の声が重なった。

「悪かったわね、あたしのパイはそうでもなくて」

 メルアが腰に手を当てて半眼でそう返すと、店内はまたしても笑いに包まれた。

「来たばかりで悪いけど、作ってもらえるかい?」

 メルアがやんわりそう言うと、アリシアは「はい」と満面の笑みで応じた。
 厨房に入り、手際よく材料を揃えていると、店内から楽しげな笑い声が響いてきた。
 アリシアは頬を緩めて微笑む。

(ああ……やっぱり、ここが私の居場所なんだわ)

 粉とバターをボウルに入れ、手に力を入れてこねながら、にぎやかな声にそっと耳を傾ける。

(大丈夫。私は離婚してもやっていける。だって、ここには私を必要としてくれる人たちがいるから)

 穏やかな空気に包まれながら、アリシアは丁寧にキャラメルナッツアップルパイを焼き上げた。

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