離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 あれから、フィリクスは何度かアリシアと話そうとした。けれど彼女は連日多忙を極めていた。
 フィリクス自身も片付けなければならない執務に追われ、なかなか時間が取れずに毎日が過ぎていった。
 ようやく時間が取れたある日、意を決してアリシアのもとを訪ねたが、彼女は不在だった。

 そんなすれ違いの日々の中で、彼は再びアリシアの働く店を訪れる。
 その日は、少しだけ以前と様子が違っていた。
 アリシアは、店の奥でひとりの若い青年と親しげに話していた。
 ふたりの距離は近く、自然な笑みを交わす様子に、周囲の客たちがざわつく。

「ふたりはもしかして恋人同士?」
「どっちも肯定しないけど、否定もしてないぞ」

 常連と見られる客のひとりが声高に言い放つ。

「よかったなあ、ディーン。奥さんが戻ってきてくれてよ」
「そ、そんなんじゃねーよ!」

 ディーンと呼ばれた青年はあきらかに照れながら頬を赤く染めている。
 その様子に周囲からはからかうような笑いが起きた。

 それを見ていたフィリクスは思わず席を立った。
 しかしすぐに拳を握り、立ち上がった体を無理やり椅子へ戻す。

(俺にそんな資格があるのか?)

 胸中で呟くように問いかけた。

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