離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 目の前のアリシアはみんなと明るく笑い、楽しげにおしゃべりをしている。
 その光景が、フィリクスにはあまりにもまぶしく見える。

 ここが彼女の居場所なのだろう。
 誰に気を使うこともなく、ありのままの笑顔を見せられる場所。

 彼女が本当に望むならば、彼女の要望を叶えてやるべきなのだろうか。

(だが、しかし――)

 フィリクスはアリシアに真っ赤な顔を向けるディーンという青年に対し、激しい嫉妬心を抱いた。

(それだけは、どうしても受け入れられない)

 メルアがやって来て、フィリクスに声をかける。

「これからあの子がアップルパイを焼くそうだけど、あんたも待つかい?」
「いや、今日は帰る。ご馳走になった」

 フィリクスはまたもや多めに金をテーブルに置いて立ち上がった。

「また来てね」

 明るくそう言う彼女にフィリクスは軽く会釈をすると、帽子を目深に被り、他の客たちに気づかれないように店を出た。

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