離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアが一呼吸おいてから再び顔を向けると、フィリクスはじっとこちらを見ていた。
 それが妙に恥ずかしくなって、アリシアは顔を背ける。

(ど、どうして、今日はこんなに見られているのかしら?)

 アリシアはぎこちない動きでフォークとナイフを使い、皿の上のローストチキンをゆっくりと口に運んだ。
 少しの沈黙のあと、フィリクスが再び口を開く。

「仕事を、しているようだが?」

 アリシアはどきりとした。
 しかし慌てることはない。仕事をしていることはセインを通じて報告してあるはずだ。ただ、フィリクスは今までにそのことについて何も触れてこなかったため、無関心だと思い込んでいた。

「……はい。今は手作りの品を、販売したり、しています」

 真実をそのまま告げる。
 ただ、大衆食堂で働いていることは口にしなかった。
 フィリクスはアリシアをじっと見つめたまま質問を続ける。

「どんな品か、訊いても?」
「刺繍や装飾品などを少し」

 しかしこれもきちんと報告していたはずだが、なぜわざわざここで訊くのだろうとアリシアは首を傾げる。

「繁盛しているのか?」
「はい、とっても。作り手が素晴らしいんです。特に侯爵家ご用達の細工師さんの腕が」

 アリシアはつい熱くなって語ってしまった。その際、フィリクスと視線がばっちり合ってしまい、慌てて目をそらした。

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