離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 庭園のテラステーブルは使用人たちの手によってあっという間に茶会の場へと整えられた。
 スコーンや焼き菓子、彩り鮮やかなフルーツの皿が並べられ、エレナが熱々の紅茶を丁寧に淹れる。

 紅茶を注ぎ終えたエレナは一礼し、少し離れた場所に控えた。そのとなりには直立不動で表情ひとつ変えないセインの姿がある。

 フィリクスとアリシアのあいだに沈黙が続き、鳥のさえずりだけが穏やかに響いている。

(こんなことをされても私の心は変わらないのに)

 アリシアは胸中でそんなことを思いながら、紅茶をひと口含む。
 そのとき、ふいにフィリクスが口を開いた。

「その刺繍」
「はい?」
「上手くできている」

 彼の視線の先には、自分が先ほどまで縫っていた刺繍布が置かれている。

「あ、ありがとうございます」
「それほど繊細な模様をよく表現できるものだ」
「好きなことですから」

 再び沈黙が戻る。
 エレナは満面の笑みを浮かべ、セインは変わらず無表情。鳥のさえずりがかえって気まずさを際立たせている。

(会話が続かないわ。旦那様と一体何を話せばいいのかわからない。誰か助けて)

 ちらりとエレナに目を向けると、彼女は両手を軽く握り、胸の前で「がんばれ」と無言の意思表示をしていた。
 アリシアは小さくため息をつくと、もう一度カップを口もとに運んだ。

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