離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアが黙ったままなので、フィリクスは眉をひそめて声のトーンを落とした。

「すまない。言い方が悪かった。君は多忙だったな。また食事でもしよう」

 まるで切り離すような言い方をされて、アリシアは困惑した。
 どうやら一緒に感謝祭に行くという意味ではなかったらしい。
 ほんの少し期待してしまった自分が恥ずかしくなった。

「はい。では、失礼いたします」

 アリシアはぺこりと頭を下げて退室した。

 *

 アリシア退室後、フィリクスは自身の執務机に肘をついて頭を抱えながら深いため息をついた。

(何を勘違いしているのだ、俺は。アリシアの心はとうに離れているというのに、まだどうにかできると思っているのか)

 フィリクスはあの食堂で見たディーンという青年を思い出し、悶々とした。

(アリシアは感謝祭をあの男とともに過ごすのだろうか)

 仕事だと言えばなんら問題はないだろう。
 しかも、あちらは周囲の誰もが認める仲睦まじさである。
 こちらはただ紙切れ一枚でつながっている契約夫婦。
 それもあと1年で終わる。終わってしまう。

 突然、扉をノックする音がして、フィリクスは思わず立ち上がった。
 それと同時に入室してきたのはセインだった。
 しばらく固まっていたフィリクスは、ハッと我に返り平静さを見せる。
 するとセインは真顔で訊ねた。

「もしや奥様だと思われましたか?」

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