離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスは赤面し、慌ててそれを隠すように背中を向けて窓の外へ目をやった。

「用件は?」
「領境で起こった夜盗襲撃事件の主犯が自害しました」
「何をやっているんだ?」

 フィリクスは苛立ちを滲ませたが、セインは淡々と続けた。

「今後は気をつけるように厳重に監視させておきます。そして、この件にグレゴリー男爵が関与している可能性がやはり高いかと存じます」
「証拠は?」
「まだ確実なものはありません」

 フィリクスは短く嘆息すると、手もとの書類へ目を落とした。
 アリシアの叔父が何かを企んでわざわざ侯爵領の境で事件を起こしていることは以前から疑っている。
 しかし確実な証拠が掴めていない。
 
「奴と契約を交わしている限り、こちらも十分注意する必要がある」
「そのことを奥様は?」
「伝えていない。知る必要はない。この契約が履行されることはない」

 セインは黙って頷き、それからフィリクスに問いかける。

「では、男爵来訪の際は私にお任せください」
「ああ、頼む。俺はせいぜい、彼のご機嫌取りでもしよう」

 セインは報告を終えると深々と頭を下げ、静かに執務室を出ていった。
 そして扉の前で真顔のまま、肩をすくめた。

(鋭いお方なのだが、なぜ妻のことに関しては頭が働かないのだろうな)

 セインはふっと笑みを浮かべ、静かに立ち去った。

< 46 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop