離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「それは物騒ですなあ」
「侯爵領の治安に問題があると思われては困りますからね。しっかり対応しなければならないと考えています」
「しかしまあ、盗賊なんぞどこにもいますからなあ。さほど気になさらなくてもよろしいのでは?」

 グレゴリーはぐいっとワインを飲み干した。
 フィリクスは食事の手を止めたまま、彼を見ることもなく言った。

「私はわりと潔癖でね。少しでも外敵があれば排除したくなるんですよ」

 グレゴリーはごふっと咳き込んでワインをこぼした。
 そばにいた使用人がすぐにナプキンを差し出すと、彼はそれを奪うようにして口を拭いた。

「我が家に敵が侵入したら、誰でもそうするでしょう?」
「は、はははっ……閣下はさすが、戦場経験豊富であられる」
「関係ないですよ。泥棒は確実に捕まえる。どの家の主人もそうしているはずだ」
「もちろんですとも。それにしても、この肉は美味いですな」

 グレゴリーはステーキを大きめにカットして口に放り込む。
 アリシアは、表情を崩さないフィリクスと狼狽えるグレゴリーを見てふと思った。

(これは遠まわしに見下した叔父を牽制したのかしら? 戦しか能がない、と叔父は旦那様を蔑んでいたから、さぞや驚いているでしょうね)

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