離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「君が支援している孤児院へ行ってみたいのだが」

 フィリクスが紅茶をひと口飲んでから、唐突にそう言った。
 アリシアはどきりとして、カップを持ったまま固まった。

「ええと、ここからですと遠いので……」
「構わない。今日は一日予定を空けている」

 アリシアは困惑した。
 孤児院へ行くには知人の多い町を通らなければならない。
 しかし頑なに断るのも不自然なので、了承するしかなかった。

「わかりました」

 馬車に乗り、いつもよく行く町を通りかかった。
 アリシアは自然と俯いてしまい、町の様子が目に映らないようにしていた。
 こうすると、まるで自分が悪いことをしているような気分になり、いたたまれなくなる。
 素性を隠しているとこんなにも窮屈なのかと、アリシアはため息をこぼす。

 特にディーンに知られてはいけなかった。
 贅沢三昧で暮らす貴族を彼は心底嫌っている。

 フィリクスがそんな人ではないことを、アリシアはよくわかっている。
 彼は戦場で命を懸けて戦っているし、帰還後は執務で多忙を極めている。

 しかし、そんな事情など民にとってはどうでもいいことだ。

「具合でも悪いのか?」
「えっ……」

 急に話しかけられて、アリシアは慌てて笑顔を向けた。

「大丈夫です」

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