離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「ねえ、おじさん。肩に乗せてよ」

 ひとりの子供がそう言ってフィリクスの前に進み出た。

「おじさんじゃないぞ。お兄さんて呼べよ」

 誰かがそう言って、どっと笑いが起こった。
 フィリクスは無言で無表情のまま子供を見下ろしている。
 アリシアはとなりでそわそわした。
 すると、フィリクスがゆっくりとしゃがんで「ほら」と子供に声をかけた。

 子供が肩に乗ると、フィリクスはゆっくりと立ち上がり、歩いたりくるりと回転してみせた。
 すると他の子たちが「僕も!」「私も!」とせがみ始める。
 フィリクスは順番に子供たちを肩に乗せてぐるぐるまわったり、わざと高く跳ねて見せた。

 その様子にアリシアは呆気にとられながらも、院長と目を合わせて笑みを浮かべた。

「侯爵様がこれほど子供好きとは……ありがたいことです」
「ええ、本当に」

 フィリクスはにこりともしないが、案外楽しそうだった。
 それを見ていたアリシアは、彼の意外な一面に胸の奥が熱くなった。


 帰りの馬車の中、しばらく静けさが流れていたが、アリシアはふと思いきって訊ねてみた。

「子供はお好きですか?」

 窓の外を眺めていたフィリクスが、ゆっくりと視線を戻して答える。

「嫌いではない」
「そうですか」

 肯定でも否定でもないのに、なぜか嬉しくて、アリシアは唇を引き結んだままそっと口角を上げた。

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