離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 そしてある日、決定的なことが起こる。

 その日はめずらしく、フィリクスが食事をともにすると言った。
 使用人たちは張り切ってアリシアの身支度を整えた。

 アリシアも緊張したが、わずかばかり期待していた。

 ダイニングルームへ行き、待つこと30分。
 フィリクスは来なかった。
 そばに控えていた料理長も給仕もそわそわしていた。

 ところが待つこと1時間。
 いまだフィリクスは現れない。

 そしてようやく扉が開いたかと思えば、やって来たのはフィリクスの侍従だった。

「旦那様は急用ができてしまい、食事を取りやめになりました」

 アリシアは放心状態になり、周囲からも落胆のため息が洩れた。

「そうですか。それなら仕方ないですね」

 アリシアは精一杯の笑顔を侍従に向けたが、彼は一礼して静かに出ていってしまった。

 その場にいた使用人たちはさすがに同情し、アリシアに声をかけたが、彼女の耳には何ひとつ届かなかった。

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