離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 驚いて目を丸くしているフィリクスに向かって、別の青年が苦笑しながら言う。

「こいつ、これでも騎士を目指しているんですよ。平民だから相当難しいと思いますが」
「わかってるよ!」

 むきになる少年に向かって、フィリクスは口角を上げ、静かに言った。

「騎士に身分など関係ない。実力がすべてだ」

 フィリクスが手を差し出すと、少年は瞬く間に赤面し、慌てて自分の服で手を拭いてから恐る恐るその手を握った。

「うわっ、すげぇ。がっちりしてる」

 フィリクスの手に包まれた少年の手はあまりに小さく見える。
 興奮と感動で声を上げる少年に、まわりが茶化した。

「騎士になったらここいる全員にメシ奢ってくれよな」

 少年は「任せとけ」と言って周囲を笑いの渦にした。

 フィリクスは穏やかに笑みを浮かべている。
 その表情を見たアリシアは驚きと切なさの混じった複雑な気持ちになった。

(旦那様はこんなふうに笑うのね)

 自分には向けてくれない顔を、他の人には向けている。
 なぜか胸がぎゅっと痛くなった。

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