離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 すっかりこの場に溶けこんだフィリクスは、他の者たちと話を始めた。というよりは、質問責めにされた。

「侯爵様、遠征はどんな感じだったんですか?」
「王宮へ行かれたことはありますか?」
「バカだなあ。そんなの当たり前だろ」
「じゃあ、国王陛下にお会いしたことは?」

 矢継ぎ早に飛んでくる質問の数々にフィリクスが戸惑っていると、メルアが軽く手を叩いた。

「こらこら、領主様はお忙しいんだ。足止めするんじゃないよ」

 アリシアは微笑ましく思いながら、しばらくその光景を見つめていたが、ふとディーンの姿がないことに気づいて厨房へ向かった。
 厨房の裏手の庭の倉庫のそばでディーンが空の樽を回収し、荷車へと運び込んでいた。

「ディーン」

 アリシアが声をかけると、ディーンはわずかに振り向いたが、すぐに作業を再開した。
 どう切り出せばいいのか迷ってから、素直に礼を口にした。

「ありがとう」
「何のことだ?」
「庇ってくれて」
「別に。ただ、あの場で責めるのは違うと思っただけだ」

 短くそう返され、アリシアは少しだけ目を伏せた。

「……びっくりさせて、ごめんね」

 ディーンは樽を積み終わると、縄でしっかり固定してからアリシアに向き直った。

「お前の旦那、いい奴じゃん」
「えっ……」
「嫁のために頭下げてくれる旦那なんかいねーよ。俺の親父なんかいつも偉そうにしてるからな」

 アリシアが言葉に詰まっていると、ディーンはわずかに笑みを浮かべて言った。

「よかったな」

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