離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 そのあとは、町に並ぶ露店をゆっくりとまわった。
 質のいい陶器や木工細工を眺めたり、めずらしい異国の書物を扱う店で立ち止まったりした。

「この装丁とても素敵ですわ。手作業なのでしょうね」
「紙の手触りもすごくいいわ」

 侯爵家の書庫にも書物は多くあるが、民に出まわるものでこれほど上質なものは非常にめずらしい。とはいえ、読み書きのできる民は半数くらいなので、売れ行きは芳しくなかった。

「購入してもいいかしら?」
「もちろんですわ」
「エレナ、あなたにも一冊プレゼントしたいわ」
「まあ、本当ですか? ではありがたく頂戴いたしますね」

 ふたりでそれぞれ好みの書物を選ぶと、店の人はきちんと包んで渡してくれた。

 そしてアリシアは自身が手掛けた商品が置いている店にも立ち寄った。
 店先には花模様などを繊細に縫い込んだハンカチやスカーフが丁寧に並べられている。
 何人かの客が足を止めて、そのうちのひとりがハンカチを購入した。
 それを見たアリシアは思わずエレナに言った。

「あれは私が刺繍したものだわ」
「どなたかが手に取っていかれましたね。よかったですわ」

 アリシアは胸が熱くなり、頬を赤らめる。胸の奥に小さな誇らしさが広がった。
 この盛大な祭りの中で、自分の仕事が少しでも関わらせてもらっている。そのことが無性に嬉しかった。

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