離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアがわずかに離れると、それに気づいたフィリクスが眉をひそめて訊いた。

「どうした?」
「いいえ、あの……すみません。肩が触れてしまって」
「遠慮しなくていい」
「えっ……」
「もう少し、こちらへ寄ってもいい」
「でも、あの……」

 次の瞬間、フィリクスはそっとアリシアの肩に腕をまわした。そのまま自身へ引き寄せる。
 突然包み込まれたぬくもりに、アリシアはどきりと鼓動が跳ね上がり、思わず声にならない悲鳴を上げた。

「っ……!」

 フィリクスの胸に頭を預ける格好になり、彼の体温が直に伝わってくる。
 がっしりとした大きな手に包まれて微動だにできない。
 どくんどくんとアリシアの鼓動がうるさく鳴り響く。

(ど、どうしよう……こんなの、近すぎるわ)

 アリシアはもはや花火どころではなかった。目をぎゅっと閉じて、ひたすらこの時間が早く過ぎ去ってくれることを願った。
 アリシアが強張っているのを察したフィリクスが、ぼそりと声をかける。

「大丈夫か?」
「は、はい……でも……」

 アリシアは燃えるほど熱くなる顔をどうにもできず、そのままフィリクスを見上げた。しかし部屋は暗いので彼にはこの顔を見られていないだろう。
 そのとき、花火の光でアリシアの顔が明るく照らされた。

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