離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました

 *

 フィリクスは自身の発言を後悔していた。
 せっかく少しずつ話せるようになったのに、アリシアを怖がらせて委縮させたようだ。
 彼女はすっかり黙り込んでしまった。

(そんなつもりはなかったのに……いや、まったくないこともないが、しかしこうなったからには少しくらい……)

 フィリクスの胸中は大混乱だった。

「あの、旦那様……着替えましたのでもういいですよ」

 振り返ると寝間着姿のアリシアがいて、思わず息をのんだ。袖のない白のワンピースドレスで素足という姿だ。胸もとがゆるやかに開いて、白い肌がよく見える。
 フィリクスは耐えきれず、思いきり目をそらした。
 そのままランタンの灯りをすばやく消す。

「では寝よう。俺の発言は気にしなくていい。冗談だ」
「……冗談だったんですか?」
「ああ。疲れて頭がおかしくなっていたんだ。最近は睡眠不足だしな。睡眠は大事だ」
「そうですね。では、あの、失礼します」

 アリシアはそう言ってベッドに入る。
 フィリクスは反対側からアリシアを見ないようにしてベッドに腰を下ろし、上着を脱いだ。

(そうだ。妻を直視しなければいい。ここは俺の部屋だ。俺の部屋。そうだ、執務室だ。考えろ。問題事は山ほどあるはずだ。そのことについて考えながら寝よう)

 ごろんと横たわると、ふわっと香水の匂いが鼻をかすめた。
 これは自分の匂いではない。甘い花のような香りだ。
 フィリクスが横に目をやると、間近にアリシアの顔があった。

(ち、近い……近すぎる……!)

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